先日、NHKのアナザーストーリーズ 運命の分岐点『山一破たん たった1つの記事から始まった』の回を見ました。
3兆5千億円の負債を抱え、廃業に追い込まれたエリート企業・山一証券。「社員は悪くありません」…そう語って社長が泣き崩れた衝撃的な破たん劇は、いかにして起きたのか?いつものように3つの視点から番組は構成され、ある雑誌記者の執念のスクープ、旧経営陣による舞台裏の証言、いきなり職を失った社員…と、バブルの絶頂から破たんへ、数奇な運命をたどった深い闇の正体が伺えるもので…とても中身の濃いものでした。
1つ目の視点は週刊東洋経済記者 木村秀哉さん。山一破たんのきっかけになる記事を書いた雑誌記者ですが、「会ってもらいたい」という、かつて投資顧問会社を経営していた人物からの1本の電話から物語は急展開していきます。提示された一連の資料は、山一が法律違反にあたる「損失補てん」を行っているという疑惑をにおわせていました。
株価がぐんぐん上がっていた80年代後半、日本中の投資ブームに火を付けたのが証券会社。「儲かりますよ!」と投資家に株の売買を勧め、その手数料で莫大な収益を誇っていったのです。ところが、バブル崩壊で株価は一気に下落。この時、収益が急落する事を恐れた山一がやったのが…特定の大口顧客が起こした損失補てん。補填する代わりに、引き続き株を買ってもらえるよう頼んでいたというのです。勿論、たった一つのタレコミが真実か否かは計り知れず、そこからこの記者の闘いが始まっていきます…。番組の冒頭から信じられない話が立て続けに伝えられた、あっという間の60分でした。
「社員は悪くありません」と涙ながらに訴えていた社長は、わずかその3カ月前に就任し、しかも…何も聞かされていなかったという事実。当時の山一証券の企画室長・藤橋忍さんは、処理を押し付けられた経営陣が、グループ社員1万人が路頭に迷うことのないよう、最後まで努力をしていたと証言されていました。あの社長の無念を押し殺して頭を下げた、あの涙の背景が、やっと見えた気がしました。ひた隠しにされていた損失、およそ 2, 600億円。膨大すぎるがゆえに上層部は公表するタイミングを失い、その隠蔽工作が会社の命を奪いました。
当時、山一證券のトップセールスマンだった永野修身さん。いきなり職を失ったその永野さんは、部下の就職先をあたり、自ら会社を立ち上げて再び仲間を呼び寄せました。もう一人の元社員・石山智志さんは、自主廃業後、虚無感に襲われ1年以上仕事に就く事ができなかったそうです。再就職先では、心ない中傷も受けたのだとか…。現在はコンビニ店を複数経営。経営のかたわら大学生の就職活動を支援をされていました。
バブル崩壊…そんな言葉は何度となく耳にしてきましたが、その背景や、渦中にあった人たちの思いを知る機会はあまりありませんでした。NHKは、BSでよく再放送を行っていますので、見損なった方は是非ご覧頂ければと思います。
※姉妹サイト「BLACKBOX」は、こちらです。