19世紀における細胞説の確立以来、細胞は生命を構成する究極の単位であり、生命を理解しそれを制御していくためには、1細胞レベルでの生命の理解が不可欠と考えられてきた。医学を支える柱である病理組織学はそのような思想を体現させたものといえる。
一方、20世紀の後半に成立した分子生物学は、生命を、遺伝子を中核とした分子機械とみなし、生物を形作るすべての分子を明らかにし、その相互作用の原理を突き止めることで、最終的に生命を理解しようとしている。
その中核となる遺伝子は、ヒトでは約2万種類と考えられており、今世紀の初頭にヒトゲノムプロジェクトにより、その全貌が明らかにされた。得られた遺伝子の情報をもとに、実際の生命現象において、全遺伝子産物を解析する網羅的解析がはじまっている。そして、この網羅的解析が、技術的に1細胞レベルに達しつつあるのである。
言い換えると、分子レベルの究極の生命の理解が視野に入ってきたといえる。Chan Zuckerberg Initiativeが、Human Cell Atlasプロジェクトという、ヒトの全身の細胞の1細胞レベルでの遺伝子発現マップを作成するプロジェクトを発表したのも、極めて時宜にかなったことといえよう。
本セミナーでは、1細胞解析の様々なテクノロジーを紹介し、その現状と問題点を把握しつつ、将来を展望してみたい。
東京大学 新領域創成科学研究科 教授
菅野 純夫
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